CONVERSATION:
ジュエリーを通して長年の絆で結ばれる
マルコム・ベッツ氏と吉本ばなな氏
ジュエリーがきっかけで出会い、25年以上に渡って友人関係にあるロンドン出身のジュエリーデザイナー マルコム・ベッツ氏と小説家の吉本ばなな氏。今回、そんな二人にインタビューを行い、これまでの出会いからお互いの生き方とジュエリーの密接なつながりを伺った。
ーお二人はどのようにして初めて出会ったのでしょうか?
マルコム・ベッツ氏(以下マルコム) 私が初めて商品を日本で展開したのが新宿店だったのですが、その際、ばななさんに初めてお会いしました。
吉本ばなな氏(以下ばなな) 私はバーニーズ ニューヨークの新宿店によく行っていて、そこでマルコムさんのジュエリーと出会いました。
ーばななさんに対する初めての印象はどのような感じだったでしょうか?
マルコム ばななさんのことは、彼女の作品を通して以前から知っていました。彼女と出会えたときは嬉しかったです。そのときからばななさんはジュエリーが好きでしたから、さまざまな話もしました。お話をしていく中で彼女の生き方にも興味を持ちましたね。

ーばななさんはマルコムさんの作るジュエリーに対してどのような印象をお持ちでしたか?
ばなな 当時、私のライフスタイルにはマルコムさんのジュエリーは高級過ぎる、少しカテゴリーが違う、と思っていました。ただ、私は本当に好きなものでないと身につけたくない性格で、ジュエリーに関しては特にそう思っていました。初めてマルコムさんのジュエリーを手に入れてからも、他のブランドなどジュエリーでさまざまな冒険をしてきて、結果、マルコムさんのジュエリーが最後まで残りました。すぐれたデザインだけではなく、ユーモアがあり、壊れにくく丈夫なところも魅力的です。
マルコム 私は日常的に身につけられるデザインのジュエリーを作っていますので、ばななさんが毎日身につけてくれて嬉しいです。靴のように使い込むほどいい味が出ますから。もちろん落としたり投げたりすれば壊れてしまいますが(笑)。彼女のジュエリーのつけ方は美しくありながら、派手すぎず、でも特別でユニークです。
ばなな 購入した当初は「自分が憧れのジュエリーに届きたい」という気持ちだったのですが、ある段階から自分がマルコムさんのジュエリーを身につけてることが彼にとっても喜びなのかなと思うようになりました。例えば、私が人とは違う身につけ方をしていることで、それが彼にとっての活力になっている、というような感じです。
ーばななさんが一番最初に購入したマルコムさんのジュエリーはどれですか?
ばなな これが、25年前、私が一番最初に背伸びして買ったものです。

右手小指のリングが吉本ばななさんが初めて手にした<マルコム ベッツ>のジュエリー
マルコム 古いアンティークのダイヤモンドを使ったものですね。スペシャルなハンドメイドのジュエリーです。私は石を買うときに形・色・質を見るのですが、これはおそらく200年ほど前のもの。その石に合わせ私がデザインしたリングはプラチナ×ゴールドですが、ゴールドをプラチナに溶かしつけているのがオーガニックでユニークなところ。他のデザイナーにはできないことですし、これらの石は今ではなかなか手に入れることができません。
ー他にばななさんの思い出に残っているジュエリーはありますか?
ばなな マルコムさんが選んでくださった月に顔があるデザインのリングなのですが、形がユニークなんです。それがとてもマルコムさんらしいなって思っていて、好きなアイテムです。

中央: ムーンストーンに顔のデザインがほどこされたリング
マルコム 私もこの石がとてもユニークで好きです。珍しいものなので、ばななさんにとっても特別なものなのは嬉しいですね。
ージュエリーを選ぶポイントは?
ばなな サイズがとても大切ですね。石の大きさとサイズのバランスも重要です。なので、基本的にはマルコムさんの生み出すベストバランスの状態からジュエリーをセレクトします。今、私がしているバングルにも他にはないセンスを感じますし、手首にフィットしつつ外れない、このようなちょっとした工夫が素敵だと思います。
ーお二人が年に一度のバーニーズ ニューヨークでのイベントで再会されるときは、どのような時間を過ごされるのですか?
マルコム 毎回会っておしゃべりするのを楽しみにしています。もちろんジュエリーの話もしますが、旅の話や私たちが好きなイタリアの話、食べ物の話もしますね。楽しい夜を過ごし、単にジュエリーを買うというだけでは得られない貴重な時間になっています。
ばなな 再会するたび、マルコムさんのジュエリーが年齢とともに似合っていくのを見てもらえるのが嬉しいですね。若いときは背伸びして身につけていたジュエリーが、段々と私自身に馴染んできていると感じます。

マルコム 私の作るジュエリーで用いるアンティークダイヤモンドには歴史があり、過去につながるものです。その古いダイヤモンドに私はプラチナやゴールドを使い新しい命を吹き込みますが、石は強いキャラクターを維持しています。ばななさんの性格はとてもあたたかく、謙虚で節度があります。私の作品に惹かれる理由もその性格やキャラクターにあるのではないでしょうか。彼女はバランスと美しさを持ち合わせたセンスがすばらしい、理想的なお客様の一人だと思います。制作のプロセスを理解した上で好んで身につけてくれていますし、ジュエリーが彼女のライフスタイルの一部になっています。私のジュエリーはジーンズとTシャツに合わせたり、ビーチでも街中でも、どんなスタイルにも身につけることができますから。
ージュエリーとともに人生を歩んでいるようですね。
ばなな 毎年、必ず新しいジュエリーが増えていきますからね。そのためにマルコム貯金を毎年していて、そこから資金を引き出してコツコツと集めています(笑)。

マルコム 長年、変わらず身につけてくれていることは本当に嬉しいことです。よい状態を保ちながら壊れることなく毎日身につけられるものというのは、実はあまり多くありません。それを実際にばななさんとともに見ることができて、本当に幸せです。最近のファッションは、例えばワンシーズンしか着ないジャケットなど使い捨てが多い。そういう意味で、ジュエリーは作りがよければすべてに勝ります。
ーこれまでのお二人の歴史の中で、何か思い出に残るエピソードはありますか?
マルコム 彼女が初めて生まれた赤ちゃんを連れてきた時。とても特別な時間でした。息子さんが育ってゆく過程を見られるのもね。息子さんは恥ずかしがり屋だけれど、私の周りを走り回ったり、そばに座ったり。彼はとても賢い子で、しっかりとユニークなパーソナリティを持っている。そして今でも一緒に来てくれています。あとは、ばななさんが彼女の最新本にサインをしてプレゼントしてくれたことも素敵な思い出です。
私は自分のコレクション用に石を買うとき、ばななさんはどれを好むだろうか、ということも考えて探します。想像にはなりますが、これまでの関係からヒントを得て考えていますよ。
ばなな 長年の付き合いになりますが、彼自身は全く欲深くなく、本当に何も変わらない。けれども、アイディアは常に進化していて驚かされます。新しい考えが毎年生まれているんです。どんなに人気があっても事業を拡大したりしない、欲で動いていないスタンスを尊敬しています。

マルコム 私は自分の今のライフスタイルをとても気に入っています。アウトドアを楽しんだり、異なる文化に触れたり...。事業を広げたり大きな計画を立てようとしたりしたことはありません。常に自分の運命をコントロールできる範囲で、小さく展開するのが理想的です。私のジュエリーのいい点は、25年、30年身につけても飽きがないこと。それは歳を重ねても自分の根幹は変わらないからです。私の性格も昔と同じままで、好きなことをやり、自分がやることを好きでいること。そして、人々を幸せにできれば最高です。また、日本の文化や、日本の人々が好きなこと、技術的なこと、ものづくりについて知る機会があることは私にとってとても特別で大切なことです。それを変えたくはない。あたたかく、心地よく身につけられるものを作り続けていきたいのです。
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吉本ばななさんによる「マルコム・ベッツの世界」は
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PROFILE
吉本ばなな
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『切なくそして幸せな、タピオカの夢』『吹上奇譚 第二話 どんぶり』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。

PROFILE
<マルコム ベッツ>デザイナー
MALCOLM BETTS
1964年、ロンドン生まれ。ロンドンのロイヤル カレッジ オブ アートに進学し、アートヒストリーを専攻。ジュエリーの伝統的なマスターピース参考に、デザインや技術を研究。1994年に自身のブランドを立ち上げる。2001年には、ロンドンのノッティングヒルにスタジオを兼ねたショップをオープン。現在、世界中に多くの顧客を持つ。
November 14th, 2019
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