2014/10/09
BUSINESS STYLE: OUR BEST LABEL MAY BE OUR OWN

クラシックかつモダンな仕様とトレンド感のあるデザインが好評の<バーニーズ ニューヨーク>のオリジナルスーツは、タイトなフィッティングと運動性の高さを兼ね備えた立体的で軽やかな着心地が魅力。これらはパターンや縫製へのたゆまない追求から生み出されます。今回の対談は、オリジナルスーツの最高峰モデルである"マディソン"と"マンハッタン"シリーズのパターンを手がける気鋭のモデリスト平林伸元さん、バーニーズ ニューヨークが得意とする大人の男性の着こなしに精通した男性誌『MEN'S EX』副編集長の平澤香苗さん、メンズMDシニアマネージャーの佐野の3人が集まり、"マディソン"と"マンハッタン"シリーズの魅力、そして満を持して登場した注目のダブルブレストモデルについて語ります。
スーツについて
佐野良(以下、佐野) 最初に平林さんと仕事をご一緒させていただいたのは8年前でした。当時、オリジナルスーツのリニューアルに際し、パタンナーを探していました。以前から平林さんの噂は聞いていて、業界でも「おもしろいパタンナーがいるらしい」と話題になっていました。実際に会ってみたら年も若く、スーツのトレンドもすごく理解していて、ハンドメイドのオーダースーツを一人の職人が手がける丸縫いの経験もある。彼にお願いしたらいいものができるかもしれないという予感がしました。平林さんは若くして最高の技術とセンス、で私たちの考える「世界基準」のスーツのイメージをそれ以上のものにしてくれました。
平林伸元さん(以下敬称略) "スタンダードモデル"、"ナローモデル"という2型のスーツのパターンを手がけたのがスタートでした。生地の風合いを生かした軽い着心地のスーツを作るために、肩パッドの綿や芯地といった副資材をまったくなくしてみたい、という佐野さんのリクエストがあり、既成概念を取り払って生地を一番に重視したスーツを考えました。最初のリニューアルモデルは副資材を軽くしたことが最も大きな特徴でした。その後もさらに進化し続けていて、現行のモデルは芯地もより軽くなり、肩パッドを入れず台芯一枚だけで作りあげています。
佐野 肩パッドは最低でも5ミリ厚の綿が入っているものですが、それさえも省き、まったく綿の入っていないジャケットが実現しました。
平澤香苗さん(以下敬称略) このように、年々"軽さ"を追求しているのは、お客様の需要としても「もっと薄くて軽いスーツが欲しい」という声が多いからでしょうか?
佐野 アンコンストラクテッド・ジャケットのトレンドの影響が大きいですね。ここ数年は、着ていて窮屈なジャケットは敬遠される傾向があります。かといって、スーツとして着た時にあまりにアンコンな作りだと着た時に型くずれしてしまいます。だけど、軽くしたいし、生地の風合いも生かしたい。その相反する要素のせめぎあいでした。芯地はさらに薄く、肩パッドも限界まで薄く、というのを目指しました。
平林 パターンはハンドメイドのビスポークスーツの型紙に近いです。オーダーメイドのスーツでは、まずは表の形を決めて、それに合わせて毛芯を設定し、体型に合うように作ります。そういった作り込みを既製のスーツにもうまく落とし込めないかということで、細かい部分から作っていきました。
佐野 芯地は一般的なスーツでは既製のものを使いますが、芯地の設計から平林さんに頼んでいます。
平林 表のパターンに合わせてどういう材料を使うかを考え、複数の芯地を重ねる場合も数ある中から吟味しました。芯地次第で、胸のあたりの立体感の出方が変わってくるのでとても重要です。立体感を出すために表のパターンも工夫しています。前身頃は肩がちょっと外側にはみ出しているような型紙を作り、アイロンで押し込みながら縫製していく、いせ込みの手法を使います。スーツの中でも一番立体的な部分なので、体に沿った仕上がりになるよう、技術の方と相談しながら、工場でできる範囲でビスポークスーツに近い作りを再現しました。
佐野 野球のボールの縫合せ方をイメージしていただくと分かりやすいと思います。外側にカーブしているもの同士を縫い合わせると丸く立体的になります。やはり、いせ込みの作業は、やるのとやらないのとでは全然違います。
平林 縫い合わせる生地同士に寸法の差があるのを合わせて縫うのは大変なことですが、昔はどこでもそういうことをやっていました。それが今は、より早く作れるように、どんどん簡素化されてきています。
平澤 今回『MEN'S EX』の11月号でもご紹介している、"マディソン"と"マンハッタン"スーツは、手の動きに沿った前振りのカーブと螺旋構造の袖が特徴ですよね。これは、デスクワークが多く、長時間肘を曲げた状態で仕事をするビジネスマンにとって、とても着やすい形だと思います。
平林 袖は2枚の型紙で作っています。下袖と外袖の差寸を利用して、縫い合わせた時に袖がねじれて立体的になる構造です。人の体と同じように、少し前に振れてねじれている状態になるように作られているので自然な着心地です。
平澤 わずかな差ですが、この"微差"が着心地には"大差"を生むんですね。
佐野 螺旋状の袖は評判がよかったので、今シーズンはもう少しねじれを強くし、肘から下にかけてより立体感な作りになっています。
平澤 ジャケットは後ろから見ても、かなり絞られているようですが...着やせ効果も結構あるんでしょうか?
佐野 バックの切替え位置をやや内側に設定し、視覚的に背中の幅を狭くしてウエストのシェイプを強調しています。
平林 "マンハッタン"はさらにシェイプを効かせたモダンな感じに仕上がっています。
平澤 あと気になったのは、前身頃と後ろ身頃を切り替える肩線がぐっと後ろに下がっている点。これはどのような効果があるのですか?
佐野 前から見た時、縫い目が見えない方が視覚的に美しく見えます。特に柄物のジャケットは縫い目が後ろにあるとすっきりと見えます。
平林 肩線が肩の真上にある方が縫製上は縫いやすいので、既製品のパターンとして採用されることが多いですが、もともとテーラーのパターンでは少し後ろにある設計です。肩線が後ろにあることで、いせ込みの量もより多くとれるので、着心地はさらによくなります。
平澤 なるほど!随所にこだわりがちりばめられているのが感じられる一着ですね。
平林 私が常に意識しているのは体のシルエットに沿わせる型紙作り。着心地のよさとシルエットの美しさを手に入れられるような縫製や内容物にもこだわります。
佐野 バーニーズ ニューヨークに訪れるのはクオリティの高さを求める大人の男性のお客様。"マディソン"と"マンハッタン"は手間をかけてこだわりを詰め込んだ自信作です。
平澤 ここまで手間隙をかけてディテールにこだわっていながら、12~15万円台というのは、デイリースーツとしても、すごく良心的ですね。『MEN'S EX』世代のビジネスマンにとって、スーツは最大の武器。時計や靴にお金をかけるのもいいですが、視覚的に一番面積が大きいのはスーツなので、"いかにフィットしたスーツを着ているか"が、人の第一印象を大きく左右します。とくに『MEN'S EX』の読者世代である40代~50代は、ちょうど体型の変化も気になる年齢。最近ちょっと手持ちのスーツがきつくなってきたなという方は"マディソン"がいいかもしれないし、ちょっと痩せてきたという方には"マンハンッタン"がいいんじゃないでしょうか。無理せず着られて、格好よく見えるスーツが、この2モデルからきっと探せると思います。ぜひ、店頭で2モデルとも試着して、一番フィットするスーツを見つけていただきたいですね。
佐野 一度袖を通していただければ、着心地のよさ、シルエットの美しさを感じていただける仕上がりです。体型に合わせてお作りいただくことができるので、ぜひおすすめします。
シャツについて
佐野 スーツが好評だったことを受けて、それに合わせたシャツも平林さんと作ることになりました。シャツのパターンもスーツ同様、至るところに曲線を使用し、立体的でフィット感のあるシャツが完成しました。一番の特徴は二枚袖。
平林 通常シャツの袖は一枚の生地で作られています。それを前後に分けることで、ジャケットの形により近い袖になっています。最近のシャツは全体的に細くなる傾向にありますが、その分フィット感が求められるので、二枚袖もそのための工夫の一つです。背中の部分は視覚の効果も含めてダーツではなく生地自体を切り替えています。ヨークもスプリットヨークにし、背中の丸みに合わせてカーブさせることで運動性を確保しています。
佐野 カフのパターンを扇形にすることで、袖口のフィット感も向上しています。
平林 ボタンの数も普通のシャツよりも一つ分多くしています。ボタンの間隔が狭いとシャツが浮いて隙間ができたりすることもありません。
佐野 台襟のパターンもブーメラン型になっていて、ボタンを開けた時に襟が持ち上がらない、首にフィットした作りです。
ダブルブレストモデルについて
平澤 今シーズンはついにダブルブレストモデルが登場しました。今回、『MEN'S EX』の11月号でも"マディソン"のダブルのスリーピーススーツをご紹介していますが、ダブルスーツはここ最近の注目株。今までダブルスーツというと、一昔前の"オジサンくさい"イメージがあって敬遠する方も多かったと思いますが、最近はそんなイメージを一新した、細身でかっこいいダブルスーツも多く出てきました。今回紹介したダブルスーツも、貫禄を出しつつ若々しさも演出できる一石二鳥なアイテムです。
佐野 一時は敬遠されがちだったダブルですが、確かに、ここ1、2年は人とは違うスーツの着方をしたい、という時にお求めになるお客様が増えてきました。バーニーズ ニューヨークのお客様は堅い仕事をされている方も多いのですが、そういう男性も着られるダブルを目指しました。
平林 襟のラインは何度も直しましたね。微妙なカーブの差で見え方が全然変わってくる部分です。
佐野 最初はクラシックな雰囲気のふくらんだ襟でした。
平林 それを少し戻しました。
佐野 ラペルが変わるだけで印象がまったく変わります。最初、ダブルは襟幅をなるべく細くしないとモダンに見えないかなと思ったのですが、「今はこれくらいの太さがいい」という若手のMDの意見も取り入れ、ベストな襟型が完成しました。
平澤 「ダブル」で「ビッグラペル」は、最近のスーツ特集でも注目している旬なキーワード。特に大人の貫禄、品格、インパクトを与えたい商談やプレゼンなどには、非常に効果的なアイテムだと思います。さらにスリーピースというのも、貫禄が増しますね。
佐野 バーニーズ ニューヨークでは、今のトレンドも踏まえた上で、たとえば「そのまま銀行の窓口に座れるかどうか?」を基準に考えて襟幅も設定しています。
平澤 ちなみに、ライニングが同系色でなく"白"、というのも脱いだとき非常に印象に残るなと思ったんですが、これは何か意図があるのですか?
佐野 白の裏地は昔のテーラーで採用されていたクラシックな誂え。中が透けて見える白は、ごまかしがききません。中の構造も自信をもって見せられる、完成度の高いものづくりだからこそ実現したディテールです。見えない部分へのこだわりは他にもあり、本水牛のボタンには裏にブランドのロゴを入れました。"マディソン"と"マンハッタン"は、「いつの時代に、どこの国のニュースキャスターが着ても普通に見える」というのがテーマ。トレンドとスタンダードを表現しながら、お客様の声を反映してリアルタイムに毎シーズンブラッシュアップされています。体型に合わせてお選びいただるよう"マディソン"と"マンハッタン"でサイジングを変えていますが、どちらもシルエットは最新です。
平林 それでも着丈はかなり短くなっていますね。サイズ46のスーツだと、着丈は70㎝。10年前と比べたら5㎝も短くなっています。
佐野 10年前のスーツを大事に着られている方が試着されると驚かれます。
平澤 着丈が5㎝短くなるだけで、5歳ぐらいの若返り効果はありますよね。
平林 パンツのわたりの幅も5㎝、股上も3、4㎝スマートになっています。
平澤 40代、50代になると、加齢とともに体型は隠せなくなってきます。それでも世のビジネスマンの多くは、「若く見られたい」と、密かに思っているもの。とはいえ、若作りしたいからと派手過ぎるシャツやタイを着ても、それが"無理している感じ"になってしまうと本末転倒。むしろ、Vゾーンは白シャツにネイビータイといった手持ちのベーシックなアイテムでも、シェイプが細くて今っぽい、自分の身体にぴったりフィットしたスーツを着ていれば、それだけで断然若返るし、かっこよく見えると思います。
佐野 『MEN'S EX』世代の男性のお悩みにもお応えできる準備はできていますので、実際に袖を通していただき、今のトレンドを実感していただきたいと思います。
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