SPRING 2018 LOOKBOOK FASHION AS MUSIC STORIES 分断された社会をつなげるヒップホップ | CULTURE | BARNEYS NEW YORK

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FASHION AS MUSIC STORIES #2

分断された社会をつなげるヒップホップ

text: Hiroshi Egaitsu

 今のティーンや20代の女の子たちが夢中になってインスタグラムをはじめとしたSNSで一挙一動を追いかけているラッパーたち…。ニューヨークはハーレムから登場したヒップホップ集団A$AP Mobから、L.A.のオッド・フューチャー、ジョージア州出身のミーゴスまで、彼らは21世紀のカルチャーのアイコンだ。

 2017年、ポップ・ミュージックのジャンル別の売り上げで、ヒップホップが24.5%のシェアを獲得して1位になった。アメリカのビジネス誌『Forbes』がこの結果を“ヒップホップの一人勝ち”と記事で紹介したのは記憶に新しい。

 売り上げだけではない。先ほど名前の出たニューヨークのA$AP Mobのメンバーは、2017年にふたつのグローバル・メジャー企業の広告に起用された。ひとつは<カルバン クライン>の「My Calvin」シリーズで、彼らの前にイギー・アゼリアやグラミー賞を受賞したケンドリック・ラマーといったラッパーたちも出ているが、もうひとつはメルセデス・ベンツのキャンペーンだ。10代の頃にはブロンクスでドラッグ売買をしていたというA$AP Rockyがメルセデスのコマーシャルに出演しているのは、僕のようなオジさんにはさすがに驚きだ。

 実際に、コマーシャルが彼の貧困に喘いでいた時代に死んだ仲間(A$AP Mobの中心メンバーのひとり、A$AP Yamsは2015年にこの世を去っている)を描き、銃撃まで登場するドラマチックな出来映えにまた驚く。しかし、このラッパーたちの持つ“ライフストーリー”がリアリティ番組世代に響いているのだ。

 思えば1990年代終わりから2000年代始めまでは、ポピュラー・カルチャー全体に有名人や上流階級の二代目が増えた時代だった。例えば、ヒルトンホテルの創設者の孫娘、パリス・ヒルトンがライオネル・リッチーの娘のニコールと有名になったのは、そのブッシュ政権の時代だ。そこに胸を打つような、はたと膝を打つような“ストーリー”はない。

 それに比べ、暗殺された2PACにせよ、L.A.のゲットーから全米を駆け抜け世界的な音楽プロデューサーDr.Dreを生んだN.W.A.まで、90年代の昔からラッパーたちはリアルなドラマに満ちている。10代の頃、ブルックリンでドラッグ・ディーラーをやっていたJay-Zはビヨンセと結婚し、オバマの就任式に呼ばれたアメリカン・ドリームの体現者だ。成功したラッパーはみなミュージシャンだけでなく、アパレルなどを多角経営するビジネスマンにもなった。

 そして、そうした90年代世代とA$AP Mobなど現在のラッパーたちが異なるのは、その広がりが彼らのスタイリッシュさにまで表れている点だ。やはり少しあか抜けないJay-Z世代と比べて、「ザ・カレッジ・ドロップアウト」というタイトルのアルバムを出したカニエ・ウェストぐらいからの変化だろう。子どもの頃からスケートボードの傍ら、仲間で集まってサイファーするのが当たり前だった彼らの世代にとって、ヒップホップは人種に関係ない。2016年の<ミュウミュウ>のキャンペーンに起用されたITガール、インディア・サルボア・メネズにインタヴューした際、彼女が実験的な映画シーンに関わる女優だと同時に、マンハッタンのヒップホップ・クルー、ラットキングとも仲間内の付き合いだと判ってびっくりした。そういえばA$AP Mobは、デビュー当時からハイブランドとピンク・フロイドやジョイ・ディビジョンなどのロックTをコーディネートしていたが、そういう従来のイメージを覆す脱領域的なルックスは、普段のライフスタイルからやってくるのだな、と納得した次第。

 だから、スタイルだけではない。ラップはジャンルも階級も超え分断されている社会をつなげる。先日、ドラッグで死んでしまった21歳のリル・ピープは“ポスト・エモ・ラップ”の注目された才能だったが、両親はふたりともハーバード大学出身のエリート。彼の「Beamer Boy」という曲を聞くと、僕と同じ90年代世代はやはりカート・コバーンやニルヴァーナを思い出すのではないだろうか。彼のスタイルにも、グランジとパンクのエッセンスが明瞭に見えるのだが、コバーンのような天才かどうかはともかく、その匂いに、ティーンが夢中になるのはすぐに判るはず。ニューヨークのゲットーの一角から始まったヒップホップは、世界を覆うカルチャーになりつつある。どうやら、まだその勢いは止まりそうもない。

PROFILE

ライター、DJ、京都精華大学非常勤講師

荏開津広

東京の黎明期のクラブでDJを開始、以後ストリート・カルチャーの領域におき国内外で活動。PortB『ワーグナー・プロジェクト』音楽監督、市原湖畔美術館『RAP MUSEUM』監修などを手がける。
https://twitter.com/egaonehandclapp