ESSAY: マルコム・ベッツの世界 | CULTURE | BARNEYS NEW YORK

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ESSAY:
マルコム・ベッツの世界

<マルコム ベッツ>のジュエリーを長年愛用していただいている作家の吉本ばななさん。ジュエリーに込めたその想いを特別に寄稿してくださいました。

マルコム・ベッツの世界

1995年から、毎年少しずつマルコム・ベッツのジュエリーを集めている。そんなに高価なものは買えないけれど、小さなものからひとつずつ。
彼の作品と出会ってから、私は他のジュエリーにほとんど興味がなくなった。運命の出会いだったのだ。
石の個性をそのまま活かしてあげようとする彼の考え方が好きだ。金銀プラチナのクオリティに対する妥協のなさも好きだ。華奢でも頑丈に作ることができる高度な技術も好きだ。
肌身離さずつけているのに一度も壊れたことがなく、美しく、上品で、すばらしいセンスと明るいユーモアがある。
どんなに高価なものでも彼の創ったものは優しくて、気位が高く人を寄せつけないという面は決してない。しかしそこには彼の佇まいによく似た静かにきらめく自信が秘められている。
デニムにTシャツのカジュアルな場面でも、ドレスコードのあるパーティでイブニングドレスと共に身につけても、彼のジュエリーなら全く違和感がなく、浮くことも貧相になることもない。

彼がほんとうにほしがっていたので、私は彼に自分の持っていた皮のリュックサックをプレゼントしたことがある。
「ほんとうにもらっていいの?これをずっと探したけれどもう品切れだったんだ。僕は君にお金を払ったほうがいいのかな?」 と真顔で聞いてきた彼の人柄に、作品に通じる確かなものを感じた。

インドにも、アフリカに近いスペインの島にも、イタリアにも、アルゼンチンにも、彼の作品と共に旅をした。
ダライラマ法王と対談をするときも、ホドロフスキー監督に会うときも、小泉今日子さんをハグするときも、松任谷由実さんと食事したときも、イ・スンギさんの舞台に出たときも身に着けていた。
そして子どもを産むときも、両親が亡くなったときも。
いつでも彼のリングやブレスレットやネックレスと一緒だった。
彼の世界はいつしか私の人生の一部になった。

リュックサックのお礼にと、アンティークのムーンストーンが入っているシルバーのリングをいただいた。「この石、ばななに合うと思った」とマルコムは言った。月のモチーフがちょっと首をかしげてセッティングされている。その月はにっこり笑っている。
ある夜、最愛の父が亡くなってひとり部屋で泣いていた私は、ふと指もとに目を落として月と目が合った。そしてその笑顔につられてちょっとだけ笑うことができた。
マルコム、この世にいてくれてほんとうにありがとう。

PROFILE

吉本ばなな

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『ふなふな船橋』『イヤシノウタ』がある。noteにてメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」を配信中。

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